2022.02.03
2021年2月:2020年度サンホセ日本人学校の報告書(抜粋)
宮本 豪
今回は2020年度サンホセ日本人学校の報告書を一部抜粋して、ご報告します。
サンホセ日本人学校(コスタリカ) (以下「SJ校」) 宮本 豪
研究提携校:アグアスカリエンテス日本人学校(メキシコ) 【以下「AC校」】
本校児童生徒数:小学部1年・2(1),2年・2,3年・1,4年・1(1),5年・1,中学部1年・3 計10人(2)
※( )は在籍人数のうち一時帰国中の児童生徒数
ICTを活用した遠隔での教育の質向上のためのプログラム開発
サンホセ日本人学校、中学部小学部を合わせても毎年10名程度の規模であり、一人学級も多い現状にある。そのため対話的学習の実施が難しく、同学年の多様な考えに触れる機会が乏しい。そこで、ICTを活用し遠隔地の学校と共同で学ぶ機会を設定することで、こうした課題を解決できると考えた。
また、学習指導要領に明示されている「主体的・対話的で深い学びの実現」の重点化をオンラインにおいても実現するため、サンホセ日本人学校の研究主題を『遠隔オンラインを活用した楽しいアクティブラーニングとは』とした。この研究主題を究明することを通して、本校研修の重点目標である「ICT機器を効果的に活用し、児童生徒の対話的な学習を充実させる」の達成を目指し、児童生徒・教師の資質・能力向上を図る。
さらに、児童生徒のコミュニケーションの場を国外に広げていくことでグローバル人材の育成につなげていきたい。
年度始めに、重点目標に沿った教師の身に付けたい資質・能力、児童生徒に身に付けさせたい資質・能力を校内研修で共有し、それを基にルーブリックを作成。目指すべきこと・やるべきことを明確にすることができた。S・A1・A2・Bの4段階評価で資質・能力の柱は以下の通り。
教師…[1]ICT操作力 [2]ICT活用力 [3]対話的学習の充実
児童生徒…[1]ICT活用力 [2]多様な関わりによる思考力
年度末のルーブリック評価では、目標とした技能のほとんどを教師・児童生徒ともに習得することができた。一つ一つの項目の達成度が分かり、何ができて何ができないのかを数値化することで、自分たちの資質・能力向上に自信をもてたと同時に、課題もはっきりさせることができた。
オンライン授業期間中に、P(良い・分かったこと)、M(課題)、I(面白い・工夫)、Q(問い)の項目別に記録するPMIQシートをGoogleスプレッドシート上で共有した。日々記録を残すことで、教師のICTに関する知識や技能の拡張、苦手意識の軽減、手立ての充実と共有をオンライン上で可能にした。この活動自体が研修としての意味をもち、大きく教師の力を向上させることができた。また、課題や問いについて、Googleスプレッドシート上での意見交流もあり、AC校との合同遠隔学習(対話ルーム)に生かすきっかけにもなった。
教育の最新課題の共有や、合同遠隔研究授業についての検討、研究の総括などをAC校と合同で実施した。本校の教師数は7名と少ないので、AC校との合同研修において様々な意見に触れることができたことが何よりも収穫であった。研修の形態としてはGoogle Jamboardを活用したKJ法による授業検討や、ロイロノート・スクールのワークショップ、Googleフォームによる研修会の振り返りなど、実際にICTを活用した研修会にすることで、教師のICTに対する知識や技能も高めることができた。
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4.SJ・AC合同遠隔研究授業(全3回) ※第2回ではT1を各校が務める2つの授業を並行して実施
(1)第1回 小学部第5学年社会科「これからの食料生産とわたしたち」(全6時間)T1:SJ校 T2:AC
AC校との最初の合同授業となった本授業は、今後の遠隔合同授業の参考になるように、両校研究主任で実施した。Zoomとロイロノートスクールの併用(Zoom用端末とiPadの併用)、独自のシンキングツールやゲストティーチャーの活用、6つの帽子思考法や音声スライドショーの共同制作など、今後の交流に活かせるように様々な手立てを試みた。最初は互いに積極的に発言をすることが難しかった児童も、回を重ねるごとに言葉を交わすことが増え、対話を通して思考が深まっていく様子がみられた。両校児童の満足度は高く、互いに名前で呼び合い、研究授業終了後も動画などで学習交流を行うなど、まるで1つの学級の仲間のような感覚が培われたことが実感できた。
(2)第2回 小学部第2学年算数科「かけ算(2)」(全5時間)T1:SJ校 T2:AC校
第2回の授業では、児童同士の多様な意見に触れ合える機会をより多く設定するために、Zoomブレイクアウト機能を活用したジグソー学習を取り入れた。第1回と同様にZoomとロイロノート・スクールを併用し、互いの考えを、図式を用いながら表現し、比較しながら話し合うことができた。合同授業前は自分の意見を伝えたり、友達の話を聞いたりすることが苦手だった児童も、楽しそうに自ら進んで意見交換ができるようになった。学習の定着度も高く、オンラインでの学び合いの効果を実感できた。
(3)第2回 小学部第3学年道徳「公正な態度で・それぞれのよいところ」(全3時間)T1:AC校 T2:SJ校
T1がAC校教師の本授業では、Zoomブレイクアウト機能を活用したロールプレイを取り入れた。小グループ毎に役割を変えながらロールプレイを行い、取り上げられた場面を疑似体験するものである。これによって、一人一人が自分事としての思いを持つことができ、意見交流を活発に行うことができた。またロイロノート・スクールで集約した意見を一斉表示することで、ひと目で友達の意見を確認することができ、話合いを円滑に進めることができた。本校児童は2年続けての1人学級であったため、友達の意見を聞くのがワクワクする、楽しみだと嬉しそうに話してくれた。この児童は普段はなかなか落ち着かず、先生の話を遮ることも多かったのだが、友達の意見をじっくり聞くことができた。また、自分の考えもしっかり伝えることができた。
5.SJ・AC遠隔合同学習・授業(全3回) ※研究授業以外の遠隔交流
(1)合同授業:小学部第1学年算数科「かたちづくり」(全3時間)T1:SJ校 T2:AC校
本校第1学年は現在1人学級。友達との関わりの中で新たな発見を得られるようにしたいと、本単元で合同授業を実施した。ZoomとGoogleスライドを併用し、同時に共同作業を行えるような手立てを講じた。スライド上で小さな図形を組み合わせ、様々な「かたち」を作り上げ、共有することができた。また、「かたち」の作り方について、友達の意見を聞きながら動かし方を示してもらうことで、平面図形の新たな特徴に気付くことができた。一緒に学習に取り組む友達がいることで、普段よりも意欲的に取り組む姿が見られた。
(2)合同学習:小学部第5学年国語科「グラフや表を用いて書こう」(間接交流)
第1回合同遠隔研究授業の後、本校児童から「〇〇ちゃんや△△ちゃんがどんな発表をするのか聞いてみたい!」という希望があり、実現した実践である。資料の情報をグラフや表に書き表し、それを用いて発表する活動で、Googleドライブの共有フォルダを活用し、資料や発表動画、感想動画を交流することができた。直接的な合同授業ではなく、間接的な交流ではあったが、AC校の友達の発表と自分の発表の違いに感心したり疑問をもったりすることができ、それぞれの表現の良さについて考えを深めることができた。
(3)合同学習:中学部第1学年道徳「よりよいクラス活動を目指して」(間接交流)
道徳の授業において、生徒から挙がった新たな「問い」について多様な意見交流をしながら深めたいが、時間も人数も余裕がない状況であった。そこでGoogleスプレッドシート上に「対話ルーム」を設置し、休み時間や自宅において自由に書き込みながら文字の対話ができるようにした。対話の形式はp4c(探求の対話)を参考にし、本授業で発展的に挙がった『誰かに「お願いする」っていいこと?』『意見を言えない子(言うのが得意ではない子)はどうすればいいの?』という2つの「問い」について考えを深めていった。対話は「お願い」から責任の話につながったり、言い方や命令との違いについての話題に広がっていったりした。また、意見を言える人や言えない人の立場による考え方の違いに触れるなど、様々な方向から「問い」を見つめ直し、思考を深めていくことができた。本校生徒は、休み時間の度に「○○さんから返事きたかな」「□□さんの考え方って面白いな」などと口にしている様子が見られ、普段なかなか話すことができない友達の意見に興味津々であった。
6.グラフィックレコーディング、パターンランゲージによる研究成果のまとめ
研究主題である『遠隔オンラインを活用した楽しいアクティブラーニングとは』に迫るために、日々のオンライン授業やAC校との合同授業・学習において、オンライン授業におけるアクティブラーニングに資する「手立て」を発案し、実践してきた。その成果をグラフィックレコーディングやパターンランゲージを用いて視覚的に分かりやすくまとめることができた。
(1)テレビ会議システム「Zoom」の活用術
オンライン授業で本校が使用しているテレビ会議システム「Zoom」には様々な機能が備わっており、オンラインにおけるアクティブラーニングを成立させるために多様な工夫をすることができる。本校ではオンライン授業をZoomで進めるにあたり、当初は次のような困り感があった。
[1]資料を見せたい
[2]子どもが自分の考えをうまく発表できない
[3]注目させたい
[4]欠席者へのサポートをどうするか
[5]コミュニケーションの手段はどのようなものがあるか
[6]話合いをしやすい環境をどう設定するか
これらを解決するための方法、そしてさらにそれらの方法を応用することで、アクティブラーニングへつなげることができる手立てを見出すことができた。
(2)学習支援システム「ロイロノート・スクール」の活用術
本校ではオンライン授業の質を高めるために、学習支援システム「ロイロノート・スクール」を全学年で導入した。ロイロノート・スクールは低学年から高学年にまで幅広く使いやすく、オンライン授業において手の届きにくいところを解決してくれる機能が充実している。本校が抱えていたzoomでは対応しきれない困り感には次のようなものがあった。
[1]ワークシートを配布したい
[2]子どもの学習状況を確認したい
[3]つまずく子への支援をどうするか
[4]オンラインでの評価をどうするか
[5]資料を有効活用したい
[6]児童生徒の発信する力を伸ばしたい
[7]思考を整理させたい(思考の仕方を教えたい)
[8]子ども同士の交流を活発にしたい
[9]振り返りをしっかりやらせたい
このような課題を解決し、さらにそれらを応用して実践した手立てが【別添資料16】【別添資料17】である。これらの手立ては、オンライン授業におけるアクティブラーニングに資するだけでなく、対面授業においても有効であり、学校が再開した現在においても有効活用している。
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(3)その他の有効な手立て
上記の手立ての他にも、多様なツールやアプリケーションを活用することで、アクティブラーニングに資する有効な手立てを実践することができた。活用したツールやアプリケーションは以下の通りである。
A:ルーブリック
B:仮解答
C:ファシリテーションカード
D:Googleスライド
E:Google Jamboard
F:シンキングツール
G:6つの帽子思考法
H:Googleスプレッドシート
I:p4c
授業の内容によっては、ここに取り上げた手立てを併用して実践することで、より効果的に学びを深めることもできた。同様にZoomやロイロノート・スクールとの相性も良く、また、対面授業においてもその有用性を実感することができた。こうした手立てについては、「どのような状況だから」「こうした手立てを使い」「このような成果が出た」というパターンランゲージの形式でまとめることができた。
児童生徒の意欲を高める工夫はもちろん重要だが、教師のモチベーションを高めることは研究を推進する上で最も重要と捉え、教師のモチベーションを上げ、維持するような研修マネジメントを心がけた。特に重要視したのは以下のポイントである。
A見通しが鮮明であること
B新しい試みは段階的に実施すること
C研修のユニバーサルデザイン化
D教師のニーズに応えた研修や実践 E全員が自己有用感を得られるような工夫(活躍の場を与える
F積極的なコミュニケーション
教師全員が一丸となって研究に取り組むことができたのが今年度最も価値ある成果だったと考える。
成果5-1にあるように、研究を通して重点目標である「ICT機器を効果的に活用し、児童生徒の対話的な学習を充実させる」については、ほぼ達成することができたといえる。また、本校の研究主題『遠隔オンラインを活用した楽しいアクティブラーニングとは』に迫るため、アクティブラーニングに資する手立てを多数まとめることができた。教師は年度初めに比べ、全員がiPadを持ち歩き、授業はもちろん、あらゆる業務において有効に活用できるようになった。児童生徒に関しても同様で、小学部1年生から中学部まで、iPadやロイロノート・スクールの機能を大人顔負けで活用することができるようになった。継続的な実践と、明確な目標設定がこうした結果につながったと考える。ICTの活用に限らず、友達の考えと自分の考えを比較し、異なるところや関連するところを整理することができるようになったり、積極的に他者に学んだことを発信しようとしたりする児童生徒の姿がよく見られるようになった。また、AC校はもちろんパナマ日本人学校(毎年関わりがある)やゲストティーチャーなど、様々な人と関わりたいという気持ちの高まりも感じられる。AG5プロジェクトの実施により、本校の教育の質が大きく向上したのは間違いない。