2021.04.07
アスンシオン日本人学校における 2020年度の取組みと成果
1.目的と概要
『南米日系人及び現地コミュニティにおける日本語教育・日本型教育・日本文化の発信・普及のためのプログラム開発とそのための教員研修のプログラム開発』
アスンシオン日本人学校(以下、本校)では「南米日系人及び現地コミュニティにおける日本型教育・日本語教育の発信・普及のためのプログラム開発」に、2017年より取り組んでいる。
本年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、2020年3月よりパラグアイ全土で全面的なロックダウンが実施されたため、本事業に多大なる影響が及んだ。ロックダウンはその後段階的に解除されたものの、学校教育は公立学校・私立学校ともに対面授業は中止され、2020年度はオンライン授業のみの実施となった(2021年2月より新年度が開始しているが、オンライン授業のみの実施をしている学校がいまだ多い状況である)。そのような状況下、実施可能な取り組みは「2.取組みと成果」の通りとなった。
2.取組みと成果
アスンシオン日本語学校の小・中学生に対するオンラン出前授業の実施(全6回、9月および10月に実施)
本プロジェクトの第一の協力・支援先である、アスンシオン日本語学校(以下、日語校)における小・中学生に対する出前授業は、2017年、2018年、2019年度と毎年行ってきた、本事業の重要な取り組みの一つである。本年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響のため、出前授業の予定は当初は立たなかったものの、日語校の関校長先生からの強い要請により、オンラインにて出前授業を実施することが決定した。
授業は全6回で、9月および10月に実施した。本オンライン授業は、日本語教師の方々の研修も兼ねていたことと、オンラインでの開催だったこともあり、地方都市や日系移住地にある各日本語学校(アマンバイ日本語学校、イグアス日本語学校、エステ日本語学校、エンカルナシオン日本語学校、チャベス日本語学校、ピラポ日本語学校、ラ・コルメナ日本語学校、ラパス日本語学校)から多くの見学者をお迎えすることができた。
授業はティームティーチング形式ではなく、基本的には本校教員が日本語のみで授業を行い、必要があった場合にのみ、日語校の担当教師がスペイン語で通訳を行ってサポートするという形で行った。試みとしてのオンライン形式ではあったが、結果として、オンライン出前授業は好評を博すことができた。
2.日系人としてのアイデンティティ形成のための教材開発
本年度の教材開発の取り組みとして、『わたしたちのパラグアイ 第3版』の『活用事例集』、および『パラグアイ 移住かるた』を作成した。
・『活用事例集』について
昨年度制作した副読本『わたしたちのパラグアイ 第3版』を、本校教員および日本語学校の教師の方々が実際の指導で活用する際に参考にできるような活用事例集。
本年度は、この副読本がより活用されることを期待して、授業を実際に行う教師向けに、その活用方法を示した『わたしたちのパラグアイ 第3版 活用事例集』を作成した(以下『活用事例集』と表記)。指導案に近い形ではあるものの、あくまで『活用事例集』であり、使用する教師自身が、自身や担当する児童生徒に合わせてアレンジし、授業に応用するよう願って作成したものである。さらに、副読本だけではなく、本校にて2018年度に作成した『パラグアイ版 移住すごろく』および2020年度に作成した『パラグアイ 移住かるた』の活用方法についても記載したため、これまでの制作物もぜひ活かしてほしいという期待が込められている。
・『パラグアイ 移住かるた』について
パラグアイへの日系人の移住の歴史を知ることができるような教材。
読み札の川柳は、パラグアイ日系老人クラブ連合会が実施しているシルバー川柳コンクールの応募作品の中から、移住に関して詠まれた句を日本人学校の教員が独自に選出したものと、アスンシオン日本語学校の児童生徒および有志の方々に詠んでいただいたもので、絵札は、パラグアイ各地の日本語学校の先生方、当プロジェクトにご賛同くださった有志の方々、日本人会連合会、各移住地の日本人会、移住史料館のご協力のもと、当時の貴重な写真や、当時の様子を再現した写真を集めた。
絵札の裏には読み札の川柳についての解説を設けており、その解説にはスペイン語翻訳を掲載しているため、日本語学校で日本語を学んでいる子どもたちの日本語理解の手助けともなる。
3.総括~本年度の成果および来年度の見通し~
本年度の成果
本年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、当初計画していた事業をほとんど行うことができない状況に追い込まれたものの、その中でも可能な範囲で、できるだけ事業に尽力した。
本校を拠点とした日本式の教育方法の発信、普及という目標については、例年行っていた合同研修会(モデル授業)や、書写指導などを行うことはできなかったが、出前授業についてはオンライン形式で実施することができた。
また、昨年度制作の社会科副読本『わたしたちのパラグアイ 第 3 版』の『活用事例集』、および『パラグアイ 移住かるた』を、教材開発の取り組みとして作成することができた。
来年度の見通し 「持続可能な支援の模索」
パラグアイでは、2020年3月より全土でロックダウンが行われ、学校教育については、オンライン授業のみが実施されるなど、厳しい対応を迫られた。
2021 年2月より新年度が開始されたが、 新型コロナウイルス感染症への対応は一律ではない。私立学校では対面授業とオンライン授業の ハイブリッド式(希望者はオンラインのみ)で、公立学校では 3 月より対面授業を実施するとされてはいるものの、その方針はすぐに転換する可能性もある。
本プロジェクトの主要な協力先で あるアスンシオン日本語学校では、オンライン授業のみで新年度を開始している。
また、新年度には教師の入れ替えがあり、本年度末に 3 名の派遣教師が帰国し、新たに 3 名が赴任する。2名の教師を4年目として残すことが決まっているものの、新校長による新しい体制のもと、半数の教師が入れ替わることとなるため、まずは学校自体をきちんと整えて、新学期をスタ ートさせることが重要となる。
このように多くの不確定事項に対応する必要があることから、来年度は成果物等の作成をするのは難しいと考える。
また、2021 年度は本プロジェクトの最終年度にあたる。本プロジェクトがすべて終了した後にも、これまで行ってきた取り組みが活かされるよう希望することから、来年度の計画として、「本プロジェクトの終了後にも、本校がパラグアイ各地の日系の日本語学校や現地の学校と学びあったり貢献したりできるような、持続可能な取り組みの方向性を整える」ということが課題であると考える。
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