2022.03.30
アスンシオン日本人学校における2021年度の取組みと成果
1.目的と概要
『南米日系人及び現地コミュニティにおける日本語教育・日本型教育・日本文化の発信・普及のためのプログラム開発とそのための教員研修のプログラム開発』
アスンシオン日本人学校(以下、本校)では「南米日系人及び現地コミュニティにおける日本型教育・日本語教育の発信・普及のためのプログラム開発」に、2017年より取り組んでいる。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、2020年3月よりパラグアイでは全面的なロックダウンが実施され、教育活動のオンライン化が急速に進んだ。2021 年度は一部の公立・私立学校では対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド授業が始まるなど、コロナ禍での新しい試みが開始されており、本校でもハイブリッド形式を実施、さらに11 月より午前午後対面授業にて試行した。
2.取組みと成果
1.日本人学校教師によるオンライン出前授業の実施
本プロジェクトの第一の協力・支援先であるアスンシオン日本語学校(以下、日語校)における小・中学生に対する出前授業は、2017年より毎年実施してきた、本事業の最も重要な取り組みの一つである。
授業は全6回、10月に実施した。
①中2 理科「科学の考え方を学ぼう」
理科という、普段日本語学校では取り扱わない教科を「日本語で」学ぶ授業。パラグアイの公立校では理科の授業が内容的に薄く、実験などをあまりしないため、このような授業には子どもたちも参観者の先生方も大きな興味を持ってくださったように思う。
②小2 国語「くちばし」
日本語、スペイン語、英語などクラス内の生徒の得意な言語状況が多岐に渡り、かなりコントロールが難しい中、教員が上手く学習へ導いていた。
③小4・5・6 音楽「ボイスアンサンブル」
音楽の授業は毎年大好評である。今年は初めての試みとして、エンカルナシオン日本語学校の児童生徒に対するオンライン出前授業を行った。授業開始後アイスブレイクなどを上手く取り入れてすぐに打ち解け、授業内容に引き込んでいくことができていた。
④小5・6 国語「感動を言葉に」
最初に詩のテクニック(擬音語、繰り返し等)を、例を挙げながらわかりやすく説明。児童生徒たちからは思いがけず素晴らしい詩の数々が生み出され、本人たちも満足そうな表情。事前に具体的な例をいくつも提示、教師自身の詩を先に提示、また、教師によるポジティブな声掛けも、子どもたちが恥ずかしがらずに発表できるよう促せた要因に思われる。
⑤中1 地理 「国の領域・・・国境線、国が成り立つ条件」
時間をかけた授業準備、深い知識に裏付けされたしっかりとした授業内容、児童生徒の興味を引く授業展開など、日本語学校では普段取り扱わない地理の教科は、児童生徒にとって大きな刺激になっていたように思われる。難易度の高い内容だったため、一部の生徒が授業をリードしているような印象があった。
⑥小4 国語「かん字のがくしゅう」(書写)
わざと間違いの多い文章を見せる、類似の言葉を見せるなど、日本語の奥深さが垣間見えるような授業。皆上手に発表ができていた。
出前授業に関するアンケートでは、すべての参観者からオンラインによる出前授業は「参考になった」という声が聞かれた。
AG5の事業として は今年度が最終となるものの、今後も持続可能な形で同出前授業を継続していけると 、本校 と現地 日系社会のとの 繋がりが、より確かなものに なっていくものと思われる。
2.日本人学校における移住学習
本年度は日本人学校の児童生徒に対する「移住学習」を行った。
この移住学習は、日本人学校の児童生徒が本事業に関わる大きな機会となった。
①学年ごとの取り組み
中学3年 チャベス移住地
中学2年 アマンバイ移住地
中学2年 ピラポ移住地
小学校5、6年生 イグアス移住地
小学校3年生 ラ・コルメナ移住地
②今後の課題等
パラグアイにおける現地学習をする上では、日本人の移住の歴史や、日系移住地についての学習は外すことのできないものである。
今回、新型コロナウイルスのパンデミックのため、実際の移住地訪問を含めた移住学習などは、実施することができなかった。インタビューにおいても、数少ない資料に頼った調べ学習からのインタビューだったため、質問内容も、移住者の方々の個人的なライフヒストリーなどまでには及ばず、どちらかというと一般的な内容に寄ってしまった印象がある。
パンデミックが収束した後であれば、移動教室などと絡めて、日系移住地に暮らす方々の生活や、今の移住地に至るまでの歴史について、より深く学ぶことができるようになると思われる。
3.総括~本年度の成果および来年度の見通し~
本年度の成果
新型コロナウイルスの感染拡大ため、パラグアイにおいても本来あるべき教育活動は大幅に制限された。本校や日語校でも一年の大半の授業がオンラインのみとなった。このような状況を鑑みて、本年度の事業計画は実行可能な範囲のみでの策定となった。
出前授業については、オンライン形式での実施となった。今年はアスンシオン日語校だけでなく、エンカルナシオン日語校に対しても、1回授業を行うことができた。
本校における「移住学習」では各移住地に関する調べ学習を行い、その後オンラインにて日系人の方々へのインタビューを実施した。オンラインにて、学習発表会を行い、パラグアイ国内からはJICAパラグアイ事務所の所員の方々が参観してくださった。
・良かった点
出前授業がオンライン形態であったため、地方の移住地の日本語学校の先生方にも本校の移住学習の様子を見ていただくことができた。日本からも頻繁にアドバイスをいただくことができた。
・反省点
日本人学校教師と日本語学校の先生方が活発に意見を交換する場が少なかった。出前授業の第4回目から短い反省会を設けたが、参加者が少なかったことと、時間が限られていたことなどから、活発な意見交換の場にならなかった。
総括~5年間の活動成果および事業終了後の持続可能な活動~
今後の課題としては、どのようにして本事業終了後にも、この繋がりを維持していけるかということがある。本校とアスンシオン日語校との結びつきは、大変強固であると言えるが、そのような繋がりが、他の日本語学校との間にもできていくとよい。そのために、今後も授業公開や出前授業を継続し、日本の学校文化を発信し続けていってもらいたい。
オンラインによる出前授業といった、遠隔地への授業実践の経験を皆が積むことができた。今後も、アスンシオンから遠く離れた移住地の学校に対しても、オンライン形式での出前授業や、児童生徒同士の交流といった可能性を、持続可能な形で模索していけるとよい。
4.資料
・AG5プロジェクト『アスンシオン日本人学校』2021年度 最終報告書(PDF)
・学習指導略案(PDF)
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