2019.12.26
香港における継承日本語科の授業実践◆課題解決のアイデア
香港日本人補習授業校 磯村 望
1.香港日本人補習授業校の概要
香港日本人補習授業校は、香港内唯一の補習校です。2つの学習コースを備え、以下のように運営しています。
(※ 詳しくは下記のウェブサイトをご覧ください。)
(1) 学校の概要
・ 児童数:約180名
・ 学級数:13学級(幼稚部2学級, レベルクラス6学級, 継承日本語科5学級)
・ 教員数:27名(各クラス学級担任+補助教員を有償で採用)
・ 授業数:36週(毎週土曜日の午前3時間)
(2) 運営
・ 組織体制:保護者による運営委員会を中心とした、香港YMCA及び学習塾との協力体制で運営
・ 教育理念:世界に生きる日本人としての自覚・誇り
・ 教育目標:
①バランス感覚の取れたグローバルな人材育成
②ことばを主体的に学び取り、アイデンティティを構築できる人材育成
・ 学校行事:運動会、学習発表会、餅つき大会が3大行事
(3) 2つの学習コース ―レベルクラスと継承日本語科―
<レベルクラス>
・ 目標:国語と他教科(算数、生活、社会、理科など)の指導を通して、日本語による知識や概念を習得する。
・ 教材:日本の小学校の教科書
・ 指導方法:日本語で考え、表現する力を高める日本式授業スタイル
・ 指導者:教科担任
・ 学習科目:国語1,国語2,総合(社会,理科,生活,算数)
<継承日本語科>
・ 目標:香港で育つ子どもたちの実情に合わせて、教科を横断的に学習し、日本語力を高める。
・ 教材:当校のオリジナル教材
・ 指導方法:探求型の学習活動に日本語を通して参加する、トピック型学習スタイル
・ 指導者:学級担任
・ 学習科目:テーマ学習,国語活動
2.継承日本語科の授業実践
継承日本語科では、オリジナル教材を使ったテーマ学習と国語活動を進めています。具体的な取り組みをご紹介いたします。
(1) テーマ学習
① テーマ学習とは
・テーマベースの調べ学習・発表を中心とするプロジェクト学習。
・多種多様な角度から、児童生徒の興味を引き出し、持続・継続できることを考えた授業を行う。
・各教科の知識を横断的・総合的に活用。
・「児童・生徒の興味関心に基づく課題」、「アイデンティティ・地域の特色に応じた課題」を解決することを目指す。
② 実際に扱ったテーマ例 ≪大テーマ≫と小テーマ
≪アイデンティティ≫
世界を動く人々,世界の補習校,働く人々
≪社会問題≫
地球温暖化,世界の貧困問題,情報モラル,ゴミとリサイクル
≪日本の文化≫
日本人とお米,日本のしきたり,日本の給食
≪日本の地理・歴史≫
日本を旅しよう,日本人と震災,日本の服装の歴史,東京オリンピック
≪香港や中国の文化≫
日中交流の歴史,香港の行事や習慣
③ 指導計画の例
(2) 国語活動
① ウォームアップ
・ 日本の童謡(季節・文化を知る)
・ 日本語を使ったゲーム活動(文字・語彙・表現・コミュニケーション)
② 漢字学習
・ 新出漢字の導入:絵から漢字を考えるクイズ
・ 演習:漢検教材を利用した習熟度別学習
・ 参考教材:『どんどんつながる漢字練習帳』(アルク),『漢検過去問題集』(日本漢字能力検定協会)
③ 聞くこと
・ 問題を聞いて、答えを考えて、理由を説明する活動
・ 参考教材:『算数と国語を同時に伸ばすパズル』(小学館)
④ 読むこと
・ 読解教材:テーマ学習に合わせて選んだ教材をリライト
・ リライト:漢字は小4修了レベル,ルビ,文節区切り,短い文,適切な難易度の言い回しに変更
・ 音読:毎週の宿題で読んだ量でコンテストを実施
・ 参考教材:教科書(国語,道徳),各省庁・自治体・活動団体等のウェブサイト
⑤ 書くこと
・ 視写:読解教材の視写,書写コンテスト
・ 作文:テンプレートを活用
・ 参考教材:『子どものための論理トレーニングプリント』(PHP研究所)
(3) その他の工夫
・ 視聴覚教材の活用:PPTを使った授業,写真・イラスト・動画の多用
・ ペア活動の重視:互いの顔が見えるコの字型の座席,毎週の席替え
・ 日本のおもちゃの紹介:折り紙,あやとり,けん玉,紙風船,おはじき,竹とんぼ,ゴムとび 等
3.授業を進める上での課題と対策
習熟度別ではなく学齢によるクラス分けをしているため、様々な課題があります。現時点では、以下のような取り組みを通して、課題に向き合っています。
① 日本語能力の差
・ ペア活動で児童が助け合う
・ 補助教員によるフォロー
・ 習熟度が高い児童への追加課題の用意
・ 保護者面談の実施(保護者の同席,クラス変更の相談)
② 日本語学習意欲の差
・ 魅力あるテーマづくり
・ 日本の文化の紹介
・ ゲーム要素のある活動
・ ポイントや表彰制度
③ 授業内の他言語での発言
・ 他児童によるフォロー
・ 教員が日本語に直して聞き返す
4.日本語ウォームアップ活動例
継承日本語科で実際に扱ったウォームアップ活動をご紹介します。簡単な準備で実施でき、説明を含めても 10 分程度でできる活動ばかりです。 授業の始まりに日本語のスイッチを入れるのにも、疲れた時に活動の合間で切り替えるのにも、授業が早く進んで少し時間が余ってしまった時にも、便利です。
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