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テーマ7.

ICTを活用した遠隔での教育の質向上のための プログラム開発

2022年1月:サンパウロ日本人学校 3年間の遠隔合同授業の振り返り

報告者:サンパウロ日本人学校 曽川 和則 校長先生
ヒアリング:AG5研究補助員 関 温理

最後の月は、曽川校長先生にこれまでの研究を振り返り、感想をお話して頂きました。

 

① 3年間の遠隔合同授業の実践研究を通しての感想を教えてください。

 

「いつ」「どこで」「だれが(だれと)」が教育活動を行う上でのキーワードとなりますが、3年間の『遠隔合同授業』の実践研究を通して、今後の教育活動が「いつでも」「どこでも」「だれでも(だれとでも)」行えることの手応えをつかむことができました。教育の可能性の広がりを実感し、未来に向かうグローバル型教育の確かな形を思い描いています。

 

2019年度の研究当初は、手段となる機器の選択や設定、遠隔地に居る互いを知らない子ども同士の学びに戸惑いを感じ、第1回目の研究協議では、黒板にたくさんの「?」が書き並べられました。それは、見通しのつかない霧の中を子どもたちを乗せてドライブするような感覚でした。

 

しかし、その不安の霧もAG5『遠隔教育』に携わる中南米日本人学校4校の合同研修会の中で、少しずつ晴れていくのを感じました。何よりも、日本とブラジル、メキシコ、コスタリカという地球上の4か国をオンラインでつないで、同時に語り合い、学び合いができるという現実を体感して、研究に取り組む仲間の思いにふれ、研究の目的や方法を共有できたことが研究に取り組む意欲となり、追究する力となりました。

 

「教師が変われば、子どもが変わる」

本校はお隣のリオデジャネイロ日本人学校(以下:RJ校)とペアを組み、具体的な『遠隔合同授業』を仕組んできましたが、その実践の中で何よりも驚いたのは子どもたちの変容です。子どもたち同士の出会いは、最初は戸惑いや緊張に満ちたものでしたが、それ以上に新鮮で大きな刺激に満たされるものでありました。

学びの中で、子どもたちが互いの共通点を見出しては喜び、違う点を発見しては驚くというアクションを通して、強くつながり合っていくのを目の当たりにしたのです。さらに、お互いが関わり合い協働することを通して、疑問が解決につながり、学びが広がり深まっていくことを実感しました。授業後の「また、やりたい!」「〇〇さんと友だちになれた!」「自分と違う考えがあって勉強になった!」という子どもたちの声が、次の授業へのタスキとなり、やればやるほど学びの可能性の扉が開いていくのを強く感じてきました。

 

「子どもが変われば、教師も高まる」

授業を設計していく私たち教師も、見知らぬ者同士の出会いにドキドキワクワクしながら、子どもたちのために繋がっていく楽しさを感じ、「次は、あれをやってみよう!」と、積極的に授業の可能性の扉を開けるアクションを起こしていきました。2020年度からコロナ禍が学校教育を暗闇の中に包み込みましたが、この難局を乗り切ったのは、オンライン授業の移行をスムーズにした『遠隔教育』研究のおかげであることは言うまでもありません。

 

 

② 今後継続的に、遠隔合同授業に取り組めるように行った工夫はありますか?

 

3年間の『遠隔合同授業』の実践は、小学部・中学部とも、お隣にあるRJ校とペアを組み、実践してきましたが、最終年度に中学部でサンパウロ日本人学校(以下:SP校)とRJ校 2校の学びの成果を、もう一方の遠隔授業ペア実践校であるアグアスカリエンテス日本人学校校とサンホセ日本人学校に公開発信できたことは、今後の遠隔教育を継続していく上でのキーポイントとなりました。総合的な学習の時間だけではなく、道徳やその他の教科学習、集会等の教育活動において、つながり合って遠隔で実践してきた成果を互いに共有し合い、この研究を3年間の指定研究で終わらせることなく、今後も未来に向けて「つなげ」「ひろげ」「ふかめる」ことを確認し合うことができました。

 

一方、小学部では、ブラジル国内3つの日本人学校がつながりました。遠隔授業ペア実践校であるSP校とRJ校の研究の成果を、ブラジル国内のもう一つの日本人学校であるマナウス校へ広げるアクションが自然と湧き上がってきたのです。マナウス校はアマゾン地区にある少人数の学校ですが、本校やRJ校と遠隔でつながることで、同じブラジルという共通部分を意識しながら、互いに異なる部分で学びを深めることができます。

 

また、自分以外の同年代との交流を通して自分と違う考えに気づき、自分の思いや考えを広げることができます。また、12時間という時差がありますが、日本の学校と動画等で交流し合う計画も進行中です。先日、AG5「遠隔教育」研究の帰国教員研修会が開催されましたが、本研究の経験者が地球上でつながり合うことで、より多くの子どもたちの学びの可能性と笑顔を広げることができると考えています。

 

 

 ③ 3年間の実践研究を通して今後挑戦したいことはありますか?

 

『遠隔教育』は、子どもの頃にあこがれた「ドラえもんの世界」の実現です。地球上の遠く離れた人たちがリアルタイムで顔を合わせ、語り合うことが可能となった現実。「いつでも」「どこでも」「だれとでも」学び合える未来社会の到来を体感できていることを、私は不思議に思うと同時にとても嬉しく思っています。この利点は、これまで解決できなかった「教育の課題」に大いに貢献していくと感じています。

 

私は、この3年間で蓄積した遠隔授業のノウハウを活かし、国内にいる小規模学校の子どもたちがより多くの人と繋がり、学べる環境を実現していきたいと考えています。例えば、離島などの少人数の学校・学級との遠隔による学び合いや、異なる場所・国・立場の同世代間のふれあい交流などです。来年度、私は日本に帰国し長崎の小学校に再赴任します。長崎には多くの離島があり、複式学級を有する小規模学校が少なくありません。

 

その中には、「同世代の話し相手があまりいない」「相手意識が薄い」などの課題を抱えている子どもたちもいます。そのような子どもたちが、オンラインで他校の子どもたちと繋がり、コミュニケーションをとり、同じ時間を共有することで、これまでなかった繋がりと学びの環境が生まれると確信しています。このように、これまで3年間蓄積してきた研究の成果を国内でも生かし、課題解決に貢献していきたいと思っています。

 

3年間の研究を通して、当初抱いていた「何ができるのだろう?」という不安が、「次は、あれをやってみたい!」という楽しみや意欲に変わっています。それは、実践すればするほど、子どもたちが変わり、私たち教師が高まっていくからです。私は、3年間の任務を終えて帰国となりますが、この実践研究を、新しい場所で伝え、広げていく力となりたいと考えています。